飲食店の各指標の中で原価率は重要な指標の一つとされています。メニューの価格設定について原価率を考えないで行ってしまうと、いくら売り上げが上がっても赤字になってしまうということが起こりえます。利益を上げるためには原価率がすべてではないのは言うまでもありませんが、今回は原価率について考えてみたいと思います。
1.原価率とは
飲食店の原価率は、食材仕入高÷売上高で示されます。また、原価率と相反する指標として粗利益率というものがありますが、その関係を示すと、売上高-食材仕入高=粗利益額となります。
料理を提供することによって得られる純粋な利益が粗利益額ということになります。
この粗利益額から人件費や家賃、経費などを差し引いて最終的に残った利益がお店の利益となりますが、原価率をどのくらいに設定するかは、お店の利益に大きな影響を与えることから重要な指標と考えられています。
1.1 適正な原価率とは?
一般的に飲食店の原価率は30%と考えられています。30%といってもお店で提供している料理は様々なものがあり、メインメニュー、単品メニュー、コース料理、ドリンクなどについて一律に30%としているわけではありません。
また、業態によっても原価率は異なります。居酒屋、レストラン、中華料理店、ラーメン店、カフェなどなど、必ずしも30%となっていないことはよくあります。
つまり一般的な原価率30%というのは、飲食業界で考えられている観念的な原価率ともいえ、30%に縛られる必要は全くありません。
例をあげてみると高級食材を使用している場合は、提供メニューの単価は高くなりますが、原価率も高くなる傾向にあります。
なぜでしょうか?ラーメン店で考えてみましょう。
食材費が150円のラーメンとスープや麺にこだわった食材費が450円のラーメンがあるとしましょう。
一般的な原価率が30%だからそれぞれ価格設定を500円と1,500円にしたとします。
高い食材を使いこだわりのラーメンで美味しいとはいっても1,500円のラーメンを注文するお客さまがどれほどいるでしょうか。
お客様が注文するとき、必ずコストパフォーマンスを気にします。いくら美味しいからといってもそれに見合う値段でなければ決して注文は得られないでしょう。
原価率にこだわりすぎると、価格設定や食材の仕入れを見誤って、高すぎるメニューや何の変哲もない無難なメニューになってしまい失敗のもととなりますので注意しましょう。
最終的にはお店の利益を残すことが重要ですから、単品メニューの価格設定だけではなく、他の指標(FL比率や経費率など)も勘案したうえで、お店のコンセプトに合った価格設定を行わなければなりません。
つまり適正な原価率とは30%ではなく、お客様に受け入れられ、かつお店の利益が残る原価率ということがいえます。
1.2 実際の原価率はどうなっているの?
では、飲食業の実際の原価率はどうなのでしょう。
上場している外食企業の売上高上位20社とここ最近上場した注目企業6社の原価率を調べてみました。
(出典:各社有価証券報告書、単位:百万円)
(注)1 日本マクドナルドホールディングスは食材材料費のみを売上原価としている
(注)2 日本KFCホールディングスはその他営業収支を除外している
(注)3 物語コーポレーションはフランチャイズ収入を除外している
単純に原価率を比較すると、カフェ事業が主力であるサンマルクホールディングスの21.8%から同じカフェ事業が主力であるコメダホールディングス58.5%まで幅広いことがわかります。
ただし、これらの原価率は単純比較できるものではなく、原価率が50%を超える会社は食材原価率が50%超になっているのではなく、フランチャイズ事業がメインであるケースがほとんどです。
フランチャイズ事業の場合は、フランチャイジーに対する食材の卸売上が売上高となっているため、会社の原価率は飲食の提供による原価率を示していないのです。
コメダホールディングスは全店舗に占めるフランチャイズ店が98%に上るため、売上高のほとんどが食材の卸売上とロイヤリティで占められると考えられます。
また、いきなりステーキで話題のペッパーフードサービスもフランチャイズ店が72%を占めるため、やはり卸売上が会社全体の原価率を上げているといえます。
以前ある週刊誌でペッパーフードサービスの原価率が55%で、他の外食企業と比較して、なぜ儲かるのかという記事がありましたが、お店での提供価格に対する食材原価率が55%ということではありません。そもそも直営事業とフランチャイズ事業では損益構造が異なるので、それを考慮しないで比較することは意味がありません。
全体的な傾向としては、丸亀製麺が主力のトリドールホールディングスや一風堂が主力の一風堂ホールディングスなど、麺類が主要売上を占める会社は原価率が低めといえるでしょう。
一方で回転寿司が主要売上であるスシローグローバルホールディングス、カッパ・クリエイト、くらコーポレーションは原価率が高めです。傘下に回転寿司のほか多数の業態をもつゼンショーホールディングスやコロワイドも原価率は高い傾向にあります。
そもそも回転寿司の場合は、食材そのものの良し悪しが美味しさに直結するため、原価率が高くなる傾向にあります。また、1皿100円という低価格を維持するためには、輸入に頼らざるを得ませんが、近年の円安が仕入原価の高騰につながっているという事情もあるでしょう。
このように、業態によって原価率は異なりますし、人件費やFL比率も併せて分析しなければ、適正な原価率がどのくらいかは一概には言えませんが、おおまかな傾向は見えてくると思います。
1.3 中小飲食店の原価率は
前項で上場外食企業の原価率を掲げましたが、大手企業では規模の経済が働き、本部一括で大量の仕入れを行ったり、輸入食材を商社から調達するなど、中小の飲食店ではできない仕入原価を下げる方法をとっています。
一般的な仕入条件よりも有利な条件で仕入を行っているため、提供価格に反映させることができ、中小の飲食店よりは価格面で有利な立場にあるといえます。
一方で大手企業は本部費がかかるなど、固定費の負担が重いため、営業利益面では必ずしも大手企業が有利とはいえない面があることも事実です。
このようなことから中小の飲食店としては、価格面で対抗することはできませんが、お客様に訴求するメニューを開発するなど、価格以外で対抗することは十分可能です。
2.原価率のコントロール
お店の適正な原価率を決めたとしても、実際に設定した原価率になるかどうかは別の問題です。
原価率といってもすべてのメニューについて一律の原価率を設定するわけではなく、個別のメニューごとに原価率を設定して、各メニューの売上ミックスで最終的なお店の原価率になります。
では具体的にどのような方法があるでしょうか。
ドリンクは比較的原価率が低く設定されていることが多く、ドリンクのオーダーをとることは戦略的に重要です。
高原価率で利益を度外視したメニューを開発し、集客を図り回転率を上げることで結果として全体の利益を確保するという戦略をとることも有効な場合があります。
また、飲食店にとって大きな問題である食材廃棄ロスを削減することも重要です。これについては次に記載します。
3.食材廃棄ロスの削減
食材の廃棄は利益を圧迫する(原価率を上げる)大きな要因となります。
売上を見込んで適正な量の食材をタイムリーに仕入れることが必要なのですが、売上が見込みどおりにいくとは限りませんので、食材廃棄をゼロにすることはなかなか難しいものです。
では食材廃棄ロスを減らすため、食材仕入れを最低限に絞ればいいかというと、そうでもありません。食材が足りなくなり、販売機会ロスが生じるからです。
食材廃棄ロスを削減するための対応策としては以下の方法が考えられます。
・少ない種類の食材で多くのメニューを開発する
・冷凍食材を活用する
・規格外の食材を活用する
・食材仕入れの発注方法を見直す
食材廃棄ロスの削減は、お店の利益につながるだけでなく、資源の無駄として社会問題化している食品ロスの削減にもつながる重要な対策のひとつです。
4.まとめ
飲食店の適正な原価率ということでしたが、一般的とされている原価率30%はあくまでも観念的なものであって、それぞれの飲食店にとっての適正な原価率は異なります。
繰り返しになりますが、原価率にこだわりすぎると失敗のもとになりますので、お店のメニューや戦略、FL比率や経費率を考慮した価格設定を行うことが最も重要なことです。

公認会計士・税理士
東京をはじめ首都圏の店舗経営者に会計、税務サービスを提供しているほか、店舗経営に関する様々なアドバイスを行っている。
経営分析による改善活動を得意としている。