会社を設立したとき、諸官庁へ届出を行わなければなりません。
初めて起業する方は何をすればよいのかわからないことが多いと思います。届出を忘れていた場合、思わぬ不利益を被ることがありますので、専門家等のアドバイスを受けることをお勧めします。
目次
1.会社設立後の各種届出先
会社は設立の登記が完了すればスタートすることになります。登記が完了した、さあこれで事業を始められると意気揚々としていることでしょう。
しかし、登記完了後にすべき事項はまだあります。各諸官庁への届出を行わなければなりません。
今はインターネットで調べれば、各諸官庁のホームページに記載例が示されていたり、専門家等のホームページやQ&Aサイトなどにも丁寧に記載されている場合がありますので、自力でもできなくはありません。しかし、各種届出は専門的な知識が必要な場合があったり、漏れなく届出を行うためには、専門家等のアドバイスを受けることをお勧めします。
それでは会社設立の届出先としてどこがあるのでしょうか。
- 所轄税務署
- 都道府県及び市町村
- 年金事務所
- 労働基準監督署及びハローワーク
2.所轄税務署
本店所在地の所轄税務署には、以下の税務関係書類の提出が必要になります。
- 法人設立届出書
- 青色申告承認申請書
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(任意)
- 申告期限の延長の特例の申請書(任意)
- 棚卸資産の評価方法の届出書(任意)
- 減価償却資産の償却方法の届出書(任意)
これらの書類を提出するときは、税務署へ提出する原本と会社保管用の2部が必要です。会社保管用については、必ず受付印を押印してもらい設立関係書類と一緒に保管しておきましょう。
2.1 法人設立届出書
法人設立届出書は、設立した会社の概要を記載した書類で、設立から2か月以内に提出する必要があります。この書類を提出することで、税務署は会社設立の事実を認識することになります。
この法人設立届出書には次の書類を添付しなければなりません。
・定款のコピー
・登記事項証明書(平成29年4月1日以降、添付は不要とされています。)
・設立時の貸借対照表
・株主名簿
2.2 青色申告の承認申請書
法人税の申告方法は青色申告と白色申告の2つの方法があります。青色申告は複式簿記で記帳を行わなければならないなど、会社への負担となりますが、欠損金の繰越や各種税額控除制度の利用など法人税法上のメリットが多くありますので、青色申告とすることをお勧めします。
この青色申告の承認申請書は、設立から3か月以内又は最初の事業年度の末日までに提出する必要があります。
2.3 給与支払事務所等の開設届出書
会社は、役員や従業員に報酬給与を支払い、所得税の源泉徴収事務を行わなければなりません。そのため、給与を支払う事務所を開設しましたということを税務署へ届け出るための書類です。
この給与支払事務所等の開設届出書は、給与の支払業務を行った日から1ヶ月以内に提出する必要があります。
2.4 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
給与から天引きする源泉所得税は、源泉徴収した日の翌月10日までに納付しなければなりません。毎月源泉所得税の納付手続を行うことは会社にとって負担となります。そこで、給与の支給人員が常時10名未満の小規模な会社については、この申請書を提出することで、源泉所得税の納付を年2回(7月10日、1月20日)とすることができます。
提出期限は特に定められておらず、提出した日の翌月に支払う給与等から適用されますが、この特例の適用をする場合は、設立時に提出するのが望ましいといえます。
2.5 申告期限の延長の特例の申請書
法人税の申告期限は、事業年度終了の日の翌日から2か月以内と定められていますが、この申告期限を延長することができます。法人税の申告は確定した決算に基づき行うのですが、会社法では事業年度終了の日から3か月以内に株主総会を開催しなければならないとされており、事業年度終了の日の翌日から2か月を超えて株主総会を開催する会社は法人税の申告が2か月以内にできないため、特例で申請することによって申告期限を延長することが認められています。
ただし、申告期限の延長ができるのは、定款で定時株主総会を事業年度終了の日の翌日から3か月以内に招集する旨の記載がある場合に限られます。注意しなければならないのは、申告期限の延長をしたとしても、法人税の納付期限は事業年度終了の日の翌日から2か月以内であることです。
この申告期限の延長の特例の申請書は、適用を受けようとする事業年度の末日までに定款のコピーを添付して提出する必要があります。
2.6 棚卸資産の評価方法の届出書
棚卸資産の評価方法は、個別法や先入先出法など複数の方法があります。評価方法をどのようにすればよいかは、税理士等の専門家に相談するのがよいと思いますが、選択した評価方法を適用するためには、届出書を提出する必要があります。提出しなかった場合には、最終仕入原価法という評価方法が強制的に適用されます。
また、この届出書は、最初の確定申告の提出期限までに提出する必要があります。
2.7 減価償却資産の償却方法の届出書
会社は様々な固定資産(減価償却資産)を購入し事業に供しています。減価償却資産の評価方法は、定額法や定率法など複数の方法があります。提出しなかった場合には、法定の償却方法が適用されます。
また、この届出書は、最初の確定申告の提出期限までに提出する必要があります。
3.都道府県及び市町村
会社は設立すれば地方税も納付しなければなりません。地方税については、都道府県及び市町村に納付するため、都道府県及び市町村に法人設立届出書(各自治体によって名称は異なる)を提出が必要になります。
また、所轄税務署に申告期限の延長の特例の申請書を提出した場合、都道府県及び市町村にも提出する必要があります。
3.1 都道府県
法人設立届は、会社設立後2か月以内に本店及び事業所所在地の都道府県税事務所へ定款の写し及び登記事項証明書を添付して提出する必要があります。
3.2 市町村
法人設立届は、会社設立後2か月以内に本店及び事業所所在地の市町村の法人住民税担当課へ定款の写し及び登記事項証明書を添付して提出する必要があります。
4.年金事務所
会社を設立したときは、すべての会社は社会保険に加入しなければなりません。加入手続きは設立から5日以内に管轄の年金事務所で行います。
加入手続きに必要な書類は次のとおりで、別途添付書類が必要となります。
・健康保険・厚生年金保険新規適用届
・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
・健康保険被扶養者(異動)届
5.労働基準監督署及びハローワーク
会社が従業員を雇用しているときは、従業員入社日の翌日から原則10日以内に労働保険に加入しなければなりません。労働保険には、労災保険と雇用保険があり、それぞれ手続きの場所が異なります。
5.1 労働基準監督署
労働基準監督署では、次の書類と関連添付書類を提出することで手続きを行います。
・適用事業報告書
・労働保険保険関係成立届
・労働保険概算保険料申告書
・労働保険継続事業一括認可申請書(複数の事業所がある場合)
また、従業員が10人以上の場合は、就業規則の提出が必要となったり、時間外・休日労働に関する協定書(いわゆる36協定)の提出が必要な場合がありますので、注意が必要です。
5.2 ハローワーク
ハローワークでは、次の書類と関連添付書類を提出することで手続きを行います。
・雇用保険被保険者資格取得届
・雇用保険適用事業所設置届
手続きが終了すると被保険者証が発行されます。
6.まとめ
いかがでしたでしょうか。提出する書類が多いですね。
全ての手続きは自分で行うこともできますし、経験のためにやってみようという前向きな方もいるかと思います。しかし様々な書類を準備し、各所へ出向いて手続きを行い、間違いがあれば修正し再度出向かなければならないなど、相当な労力を要しますし、専門的な知識に基づいた選択を求められる内容もあります。
やはり会社設立手続に精通した税理士や社会保険労務士などの専門家等のアドバイスを受けることは必要だと思います。

公認会計士・税理士
東京をはじめ首都圏の店舗経営者に会計、税務サービスを提供しているほか、店舗経営に関する様々なアドバイスを行っている。
経営分析による改善活動を得意としている。